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  • みんなの習慣

    vol.72

    うたいて

    山田里美さん

    ライフステージ・ワークショップ・朗読会などで声をとおして表現活動を行う

    演技の勉強や、モデル、エッセイストなどのお仕事をされた後、歌い手として活動を始められ、現在は声を通して自然やその場と響き合うような、ライブやワークショップで独自の世界を表現されています。初冬の光がふりそそぐ中で、習慣についてお話を伺いました。

    日々暮らす中で習慣にしていること、大切にしていることはありますか?

    • 山田さん

      大切にしているのは、朝の時間の過ごし方です。今の季節は6時頃に起きて、「朝のごあいさつ」のような、朝の習慣を始めます。体を動かし、声を出して、自分の体と外の世界とのやりとりをします。そして、今日も一日良い日でありますように、自分を整えて、外の世界、自然と目には見えないものに、一日よろしくお願いします、と挨拶をするための時間です。

      北麓草水

      朝から気持ちが清々しく、凛とするような時間をつくられているのですね。具体的に、どのようなことをされるのか、教えていただけますか。また、外の世界とやりとりをするというのは、自然、木や太陽、空気、その他諸々の存在とコミュニケーションをとるということでしょうか。
    • 山田さん

      そうですね、そのようなイメージです。自分の発した声や動きは、周りに伝わっていると思うのです。私たちは自然界から常にたくさんのものを受け取って生きています。私たちが発していることも、自然の中に届いていると思っています。朝起きると、鉄瓶でお湯を沸かします。東向きの朝日が入る部屋に亡くなった祖父母の写真が飾ってあり、その前に供えている水とお茶を新しいものに替えます。今住んでいる家は、古い日本家屋で東向きの部屋に神棚があり、神棚の水も替えます。神棚には、川で拾った石、流木、羽根など自然のものを飾っていて、私なりの祈りのスペースにしています。昔の人たちが、すべてのものに神が宿っていると考えて八百万の神を敬ったように、自然に失礼がないように、自分の使命を生きることができるように、自分の中の大切にしているものを確認するための場です。その後、ゆっくり白湯をいただいて、ヨガとストレッチで体と会話するように動かします。それからしずかに呼吸をみつめ、声を出していきます。祝詞、般若心経などを丁寧に声にのせ唱える時間は、瞑想のようでもあります。これらのことをじっくり行なうと一時間ほど、瞑想を加えると、あっという間に二時間くらい経っています。とはいえストイックになりすぎず、朝早くから出かける時は、できることだけをします。それから朝ごはんを食べて、洗濯や掃除と生活の時間に入ります。一日のはじまり、朝の光の中のひとつひとつには、毎朝のことでも、驚くくらいきれいな瞬間があります。

      北麓草水

      朝の習慣を始められて、よかったことなどあれば教えていただけますか。
    • 山田さん

      朝、体をほぐして声を出し、声を自分の中に響かせることは、肉体と内面の調律をしているようなイメージです。日々、いろいろなことがあって、グラグラすることもあるけれど、この朝の習慣を大事にすることで、一日の始まりにはまず、自分の真ん中に戻ってくることを確認できているような気がします。

      北麓草水

      一日の始まりに、とても充実した時間を過ごしていらっしゃることに、驚きと感動を覚えます。慌ただしく一日を始めるだけでなく、少しでも自分の心と体に向き合い、自然を感じるような時間を持てたら良いなと思います。

    その他に大切にしていること、習慣にしていることは何かありますか?

    • 山田さん

      海に行くことです。父の仕事の関係で、田舎の海のある街で育ちました。子どもの頃から、困った時には海に行けばいい、と経験から感じていました。海を前にすると、心が落ち着きます。波が動くのを見て、音、風を感じているだけで、自分が抱えていた問題だと思っていたことが、解決してしまうことがたくさんありました。

      北麓草水

      今でもよく海に行かれるのですか?
    • 山田さん

      四季を通して頻繁に行きます。坂を下りると海に出るので、朝出かける前にひと泳ぎしたり、自転車で海辺の道を走ったりします。さすがに冬は泳ぎませんが、海を前にボーッとし、のんびり浜辺を歩いて過ごします。からっぽになる時間が好きです。海に潜って、裸眼で見る水の中の色や光は、例えようもなく美しいです。リラックスして浮いていると、自分が海とこの星の一部になったような感覚になり、心から安心感と一体感を感じます。境界線はなく、自分は全体の一部であり、大切な役割があるのだと感じます。海は圧倒的に大きく、そして柔らかく、そこにあるだけで私にたくさんのことを教えてくれる、なくてはならない存在です。

      北麓草水

      海と山にいだかれ、毎日自然を感じながら生活されていることが、山田さんの創作活動の源となっていることがよくわかりました。山田さんは、携帯電話を持たないようにされたそうですが、何かきっかけがあったのですか。不自由なことはありませんか?
    • 山田さん

      携帯電話を使わなくなって、3年たちます。全く不便は感じません。身軽で気持ちも軽くなりました。家には電話がありますし、パソコンも使っています。携帯電話を持たなくなって、気のせいかもしれませんが、話したいと思っていた相手に偶然ばったり会えたりすることが増えました。必要なことは携帯電話がなくても伝わると思って、心配はしていません。でも、スマートフォンの便利さもわかるので、いつかは使うかもしれませんね。

      北麓草水

      スマートフォンだけでなく、テレビもなく家電製品もとても少ないですね。それが、心地よさにつながっているような気がします。
    • 山田さん

      便利な道具はたくさんありますが、これは使う、使わない、必要か必要でないか、と意識して選択をしています。自分で作れるものは作る。壊れたら直して使う。使わなくなったものを譲り受けて使う。そういったシンプルな暮らしで、できるだけ自然に迷惑をかけないように、生きていけたらいいなと思っています。

    山田さんは、自然豊かな環境で育つ中で、現代社会の最大の課題でもある自然との共生を、小さな頃から曇りのない瞳で見て、感じ考え続けて、大人になられたそうです。夕方、一緒に海まで歩き、太陽が海の彼方に沈んで行くまで、空と雲と海の変化を見て過ごしました。一日ご一緒して、自然の中でお話と声を聞かせていただいて、いつのまにか無意識に入っていた力が抜けて、体と心が軽くなっていることに気がつきました。自然と対話をし、自分自身と向き合い、そして自分は自然の一部であると自覚することは、人を謙虚で幸せにそして、しなやかで美しくするのだと感じました。ありがとうございました。