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    vol.109

    パン屋秋日和

    清水秀一さん・綾香さん

    神奈川県真鶴町でパン屋を営む

    真鶴駅から海岸へと向かうゆるやかな下り坂の途中にある、パン屋秋日和。白いペンキで塗られた壁は風景に溶け込んでいて、看板が出ていなければパン屋さんだとは気がつかないかもしれません。2018年に真鶴に移住し、仮店舗での営業を経て2019年秋にこの場所にお店をオープンされた秀一さんと綾香さん。街の人から愛されているパン屋さんで、取材に伺ったお天気のよい週末は、お昼すぎにはパンがすっかり売れ切れていました。焼き立てのパンの香りがただようお店の中で、お話を伺いました。

    Q,日々暮らす中で習慣にしていること、大切にしていることはありますか?

    • 秀一さん

      何ごとにもシンプルであること。シンプルなものが好きですね。

      北麓草水

      おっしゃる通りにお店の外観も内装もとてもシンプルですね。潔いとも言えますし、お店の外には木の看板があるだけで、控えめというか素っ気ない感じさえしてしまいます。
    • 秀一さん

      もともとここは倉庫として使われていた建物で、パン屋に改装する時は、必要最低限の棚などを置くだけにして、年月を経て味わいや変化を感じる空間にしようと考えました。パンを入れているガラスケースの什器は、真鶴で100年以上続いたパン屋さんから譲り受けて大切に使っています。

      北麓草水

      そのようなお考えがあったのですね。この年季の入った什器も真鶴で長く愛されたパン屋さんから受け継いだというのも素敵なことですね。落ち着いてお店を見渡すと、白い布だけをパッチワークしたカーテンや、清水さんご家族とパンをモチーフにした絵など、温かい心が感じられる品々がありますね。
    • 秀一さん

      パッチワークのカーテンは、服のパタンナーの仕事をしていた妻、綾香さんの手づくりです。いつも僕がパンを焼いて、店に立ってお客様と接する仕事は妻がしています。妻は控えめで人前に立つことが苦手なので、今日のインタビューは僕がお話させていただきますが、二人で切り盛りしている店なのです。絵は友人の画家がお祝いに描いてくれました。

      北麓草水

      シンプルと言えば、今日お二人が身につけていらっしゃる服も上から下まで白ですね。
    • 秀一さん

      白いTシャツは着心地がよく、いつもこのTシャツと決めているのです。友人が営んでいる吉祥寺の「シロ.」というお店のもので、どの服も自然素材を使い丁寧に仕立てられていて、シンプルで着心地がよく、いつもお世話になっています。一つ一つのアイテムがシンプルだと、組み合わせや工夫で様々な楽しみが生まれると思っています。

      北麓草水

      綾香さんお手製のパッチワークのカーテン、白いTシャツ、どちらもシンプルという言葉の中にいくつもの細やかな思いやお考えがあるのですね。清水さんがつくられるパンとも共通するところがあるのでしょうか。
    • 秀一さん

      はい、パン屋秋日和で人気の定番のパンは、角食パンと田舎パン(パンドカンパーニュ)ですが、どちらもシンプルでいろいろな食事に合わせて召し上がっていただけます。朝食はトーストにしてバターやジャムを添えて、コーヒーや紅茶と。ハムやチーズを挟んで、サンドイッチにしてもいい。野菜とマリネした魚を乗せて、オープンサンドやブルスケッタにしてもいいですね。これからの寒い季節には、夕食に温かいシチューと一緒に召し上がってみてください。

      北麓草水

      さまざまなシーンが思い浮かびますね。お料理との組み合わせを試してみるのは楽しいですね。
    • 秀一さん

      自分自身は、毎日食べても飽きることがなく、色々な食べ方ができるシンプルなパンが好きですね。店ではお客様に喜んでいただけるように、いろいろなパンを焼いていますが、定番の角食パンと田舎パンは大切にしています。パンがシンプルだからこそ、主役になる料理の美味しさを引き立て、さまざまな素材と組み合わせて、美味しい組み合わせを見つけるのが楽しいですね。田舎パン(パンドカンパーニュ)は、焼き立てから毎日少しずつ風味が変化していくので、その変化も楽しんでもらえたらと思います。バケットや角食パンは、数日経って少し硬くなったら、フレンチトーストにするととても美味しいですよ。

    Q,その他に大切にしていること、習慣としていることはありますか?

    • 秀一さん

      無理をしないように心がけています。もともとの性格が完璧主義というか、自分の決めたように整っていないと気が済まないところがあります。すべてを自分の納得いくように完璧にしようとすると疲れてしまうので、意識して無理をしないように、自分で自分を追い詰めないようにしています。ここは田舎町で時間の流れも都会に比べてゆったりしているので、それにも助けられていると思います。例えば東京で働いていた時は、1ヶ月ごとに髪を切ると決めて習慣にしていました。でもここに引っ越してからは、そうは行かず出張美容院が2ヶ月に1度きてくれるときに、髪を切ってもらっています。相手や周りのペースに任せないとならないことも多く、最初は不便に感じることもありましたが、今はそのゆったりしたペースがいいのかなと思います。家族を持って子どもを授かったので、自分のペースだけではやっていけません。仕事も根を詰めすぎないように、疲れを感じたら早めに休むことが大切だとわかるようになりました。早めに休んで調子を整えれば大きく体調を崩すこともなく、また元気にやっていけます。夫婦二人で協力して、これからも美味しいパンをつくり続けて、みなさんに喜んでもらいたいと思っています。

    大学でも数学を学んで、その後にIT関係の仕事についたという清水さん。食に関わる何かをつくる仕事がしたいと考え、お母さまがパンづくりを教えていらしたこともあり、自然にパンをつくるようになったそうです。発酵に6~7時間かかるという天然酵母のパンを、その日の温度や湿度により細やかな調整をしながら、さまざまな種類のパンを一人で焼いていらっしゃいます。取材中、「お隣に美味しい焙煎コーヒーのお店ができたのですよ。」とコーヒーを出してくださいました。コーヒーとパンの香りの中、お話を伺っているその間にもお客さんが来店し、綾香さん、秀一さんと楽しそうに言葉を交わしていらっしゃいました(焙煎コーヒーのお店「watermark」)。帰りがけには「真鶴の新しいお店や移住した人にとって中心的な場所があるのですよ。」と出版社とゲストハウスを営む「真鶴出版」を教えてくださいました。丁寧で実直なパンづくりと気さくな人柄の秀一さん、爽やかな笑顔が素敵な綾香さん、お二人のお店が街にはなくてはならない存在になっていていることを感じました。定番の田舎パンは、また食べたくなる深い味わいのとても美味しいパンでした。ありがとうございました。