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    vol.131

    株式会社チーム・オースリー / メイド・イン・アース

    伊藤美樹さん

    お越しいただいた伊藤美樹さんは、東京・自由が丘にあるオーガニックコットン製品の専門店「メイド・イン・アース」でお仕事をされています。妻でもあり、ふたりの娘さんの母でもある伊藤さん。さぞかしお忙しいことと思われる毎日を、どんな習慣で過ごしておいでなのか、お話を詳しく伺いました。

    日々暮らすなかで習慣にしていること、大切にしていることはありますか?

    • 伊藤美樹さん

      いつもバランスよくいることを心がけています。仕事と家庭、自分のことと人のこと、面倒くさいことと楽しいこと、適当でいいことときちんとすること、身体に良いものとジャンクなもの。色々と、自分のなかでバランスがとれているときが、一番心がおだやかになれます。

      忙しくて余裕がなかったり、暮らしの変化に気持ちがついていけない時など、意識的におだやかでいようと心がけています。娘たちが小さい頃は、「イライラするのはやめよう」と決めていました。例えば「布おむつにしてイライラするくらいなら、紙おむつにしよう!」とか「怖い顔でおっぱいをあげるなら、ミルクも併用しよう!」とか。朝早くつくるお弁当も毎日写真を撮って、自分の楽しみにしたり。子どもに手がかかる時期も過ぎて、比較的落ち着いた生活をしてきました。けれど、生活環境が変わるとバランスが危うい時もあります。

      北麓草水

      そんなふうには見えないほど、おだやかな雰囲気をお持ちです
    • 伊藤美樹さん

      実際のところは「おだやか」というより「ぼんやり」というか。私のなかでは「鈍感力」だと思っています。鈍感力、気づき過ぎないって大切なんです。ちょっとしたアクシデントがつい気になってしまっても、すぐ気づかなかったふりをする。わりと「まあ、いいか」で済ませてしまう。それ以上蒸し返さない。

      北麓草水

      気分を切り替える上手な方法を身につけていらっしゃるんですね。
    • 伊藤美樹さん

      特別なことをしているわけではないんです。いつの間にか、です。食べたり飲んだりしているうちに忘れていることも多いですし。家族で、時には友人も加わって食卓を囲んで、みんなで「いただきます」をして、楽しく飲んだり食べたり。そのうちにネガティブな気分が消えていきます。いま一番楽しんでつくっている保存食、お味噌とか、梅干しとか、山椒の実の煮たのとか。自分で丹精したものをみんなで食べる、ということがとても楽しいです。

      北麓草水

      全部お金を出せば買えるものですよね。でも、手づくりする。その理由はどんなことでしょうか。
    • 伊藤美樹さん

      きっかけは東日本大震災の後、食の安全についての報道でした。小さな子どもたちを育てている時期だったので、私も考えるようになったんですね。身体に良いものと悪いもの、とはいっても、ガチガチになるのはよくないので、ほどほどに。既製品を食べることもあるけれど、気をつけるところは気をつける。

      ちょうどその頃、自然食品のお店で働いていて、季節になると梅干し用の梅やお味噌用の大豆を売っていました。それで私もつくるようになったんです。自分でつくったものって、やっぱりいい。丁寧な生活をしているっていう喜びもあるし。そうなると、今年はつくろうかな、どうしようかな、去年もつくったから今年もつくらなくちゃって。つらいと思うときもあるんですよ。例えば、月曜日に梅の実が届いてしまって、夜遅くまでかかって下ごしらえをして、お塩をまぶして。でも、つくらなければよかった、ってことは一度もないんです。毎年、毎年、続けることが習慣になりました。

      うちは子どもがふたり、女の子なんです。保存食づくりや手仕事に巻き込めることも、手づくりを続ける理由かもしれません。一緒に大豆をつぶして、お塩と混ぜて、玉にして、樽に投げつけて空気を抜いたり。梅シロップをつくれば喜ぶし。来年は娘の友だちも呼んで、一緒にお味噌をつくるんです。よその菌をもらうと、お味噌が味わい深くなるんですって。いつか、娘もその友だちも、私のもとを離れても、季節になったら「あ、あれつくってたな」って、自分たちではつくらなくても、思い出してくれたらうれしい。

      北麓草水

      ほかにも、ダーニング(※)や染色、金継ぎ、コンポストにご関心がおありとか。手仕事がお好きなのですね(※ダーニングとは、衣服を針と糸で繕うヨーロッパの伝統技法)
    • 伊藤美樹さん

      持っているものにちょこっと手を加えること、好きなものを大切に使うことに喜びを感じます。それも気分を切り替えるきっかけになっているかもしれない。そうそう、手仕事といえば、子どもたちがまだ小さい頃、夫が海外へ出張するときは、必ず小冊子をつくって渡していました。

      北麓草水

      小冊子?
    • 伊藤美樹さん

      例えば、アメリカへ行くことになったら、A4の紙を折り畳んで、「アメリカ」ってタイトルを書いて、なかに「いってらっしゃい」とか「気をつけてね」とか、ちっちゃい絵とかを描くんです。その頃、夫は海外出張が多かったんですね。仕事は楽しくても、家族と離れているのは寂しいだろうし、家の様子も知らせたい。感謝の気持ちも込めて、娘たちと3人でつくっていました。

    その他に大切にしていること、習慣にしていることはありますか?

    • 伊藤美樹さん

      大切だと思うことや気持ちを共有することですね。

      自然食品店で働いているあいだに、直接口に入れるものだけでなく、肌に触れる衣類、衣類や食器を洗う洗浄剤も重要だと知りました。そんななかで布ナプキンの存在を知ったんです。ちょうど娘たちは思春期。使う・使わないより、こういう選択肢もあるのだということを教えたい。そんな気持ちから、ネット検索でヒットしたメイド・イン・アース、いまの職場に買いに行ったんです。

      布ナプキンを通して、娘たちとわりと何でも話せるようになりました。それまでは女性の身体の話って、あまりオープンには話せませんでした。ナプキンも「パパには見えないようにしなさい」って。それが、布ナプキンの使い方、汚れの落とし方から始まって、失敗談から武勇伝、自分の身体の大切さとか、夫にわざわざ聞かせるわけではないですが、不自然に隠すことなく、楽しく話せるようになりました。こちらが心を開いて思いを伝えれば、きちんと聞いて、答えてくれるんですね。

      あとは、自分のなかのバランスが崩れそうになると、それこそ心を開いて、家族に決起集会を呼びかけるんです。

      北麓草水

      決起集会?
    • 伊藤美樹さん

      家族で楽しく飲む。気持ちのもやもやは楽しいことで忘れて、バランスを取り戻します。家族や友だち、みんなで美味しいものを食べて、美味しいお酒を飲んで、楽しい話をすること。それが一番の私の癒しです。

      決起集会で、娘の友だちが働いていた山荘に家族で行こう! と決めたこともありました。家族それぞれが体力づくりをして登ったんです。白馬岳は3,000メートル級の山で、山荘は山頂のすぐ下。想像以上につらかったけれど、自分だけでは絶対にしないこと、決断できないことにチャレンジできた。かなりの達成感と爽快感でした。娘の友だちは「本当に家族全員で登って来るなんて、なかなかできない。感動した!」って、目を丸くしていました。

      実は私、もともとはそんなに外に向いているタイプではなかったんです。家に誰かが来るとか、初めての人との食事とか、苦手だったんです。それが年の功でしょうか、決起集会のおかげでしょうか、受け入れられるようになりました。誰にでもいい顔なんてしなくていい、いっそ寝ていたっていいとか、ちょっと図々しくなりましたね。楽しめるようになりました。

      北麓草水

      そんな変化をこれからも楽しんでいかれますか。
    • 伊藤美樹さん

      推しをつくるとか、ひとつのことのプロフェッショナルになるとか、毎年色々目標は考えるんです。でも、私にはなかなか難しい。変わらずちょこちょこ細かい作業をして、好きなものに囲まれて。みんなが遊びに来てくれて、ワイワイガヤガヤ楽しく美味しいものを食べて、好きなところに出かけて行って、ちょっとチャレンジして。変化というよりは、いつもしているこんなことを、貪欲にいくつも続けていけたらいいですね。できたらバランスの可動域は広く持ちたいと思います。

    「何かひとつを突き詰めようと思っても、なんとなくできない。そこがコンプレックスでしたけれど、ここ1~2年は『まぁ、それが私なのかなって』っていうごまかしに入るようになりました」と伊藤さん。お仕事では、日本ではつくられなくなった「和綿」復活プロジェクトを進められているそうです。収穫後、どんな製品をつくられるのか、私たちも楽しみにしたいと思います。今回はありがとうございました(2024年10月28日公開)